実務家教員、人生の岐路で生きる事に挫折した

エンジニアから実務家教員になった筆者が、再び人生の岐路に立って、生きる事に挫折するまでの記録を綴るblogです。

査読論文の不条理

 個人的に、3連休から中一日挟んでのお盆休み5連休となりました。この貴重な期間をどのように過ごすかが今回の話題です。

 

 周りからは「学生が休みの間に論文を書くんだよ」と言われておりましたが、私は書ける精神状態の時に論文を書いて投稿する、という人間なので、書ける時に一気に書いて学会誌に投稿する事を繰り返していました。

 しかし、査読論文はことごとく落ち、その度に査読コメントを読んでしんみりしています。時には「そのような研究は既に行われている(ほぼ原文ママ)」としか書かれていない査読者コメントを目にして「じゃ、具体的にその論文の例を示してみろよ!」と逆ギレしたり…。そういう時は、一気に論文を書く気力が失せます。最近は、学会誌の査読は一発勝負、多くても修正1回までとなっている所が多いため、非常にハードルが上がっています。

 それと、私の研究は実験系なので、理論の積み上げだけで論文が書ける訳ではありません。実験をこなすだけでも大変なのです。しかも、倫理審査を要する分野でもあるので、統計的に有意差を示せるだけのサンプル数を稼ぐには非常に時間がかかります。

 

 一方、査読者から来るコメントに対するコメントにツッコミを入れたい事も多々あり…

  • サンプル数が不足しており、統計的な有意差を語ることは困難
    →私の実験より少ないサンプル数(n=8程度)で採択されている企業人執筆の査読論文もあるんですが?
  • 実験環境について…(中略)…適している実験環境ではないと考えられる
    →企業の実験環境と同一の実験環境にしているんですが?
  • 実験参加者の年齢層が偏っているため…(以下、身バレにつながるので略)
    →…研究の目的に「若年層の(略)」と書きましたよね?ちゃんと論文を読んで頂いてないんじゃないですか?

…なんだか、査読者が「査読論文を落とすことに快感を得ている」ようにしか感じられないのです。決して、自分の偏見だけでなく、査読コメントの文面からそう読み取れるのです。自分の論文の内容にケチをつけられるのなら、企業の技術者が出してきた論文だって相応に落とされるべきだし、その逆なら自分の論文も1本以上は通ってしかるべきだ…と、本音はそう言いたいです。しかし、ここはぐっとこらえて、採択されなかった論文をじっと寝かせて、再度冷えた所でもう一度読み直してみます。

 

 さすがに、昨年度に査読論文を5回投稿して全落ちしたら、書く気力も萎えるというものです*1。この経験をとおして感じたのは、学会によって査読者の質が大きく異なる事。例えば、学位を持っていない企業の管理職が査読するような実務系の学会誌は、企業人に甘く、教育機関の研究者に厳しい傾向があると痛感します。これはまさに大きなバイアスです。一方、普遍的な学術分野の学会誌は、査読者の質が高いと実感出来ます。そのため、通りやすい学会誌への投稿をあえて避け、しっかりした学会誌への投稿を心がけています。

 

 …今年の夏休みは、査読論文を再びリバイスするための心身の調子を整える夏休みになりそうです。

*1:幸い、お手伝い程度で執筆した共著の書籍が1冊刊行されましたが…。

転職活動中の人は傲慢な人が多いのか?

 まず、先日面接審査を受けた某私立大学から、お祈り手紙を受領しました。これで、転職活動は振り出しに戻りました。

 '20/8/9現在の状況は、

  • 書類審査結果待ち:3件
  • 書類審査締切前:7件(内、6件が8月中に締切)
  • 書類審査落ち:16件
  • 面接審査落ち:1件

と、なりました。この数字を見て、皆さんはどう思われますでしょうか。

「やっぱり能無しとわかるんじゃね?教員やめたら?」

「金稼ぎたかったら、教員やめて企業に再び転職したら?」

「人間として失格なんじゃね?」

…と、心の奥底では、人格否定も込みで私を否定することによってマウンティングの快楽を得ているでしょう。そう思われても仕方がありません。そういう心無い声を受けるのも覚悟しながら活動していますので。ただ、心無い言葉は、時に人の命を殺めるものであることを理解していない人が日本にあまりにも多い事は、今年春以降の事件で改めて表面化されたかと思います。あえてどの事件かは申し上げませんが、日本人は先進国で最も残酷で陰湿な人種ではないかと感じることもあります*1

 

 心無い声といえば、昨日、お祈り手紙を受領した事の報告(内輪のSNS)に対する知人からの一言が。

「その”傲慢”さが感じ取れたのではないかと思われます。」

…この”傲慢”というキーワードを受けたら、皆さんはどんな反応をしますでしょうか?怒りますか?謙虚に受け止めますか?スルーしますか?私は、不思議と怒りは無かったです。「あぁ、この人らしい物言いだなぁ…。」と真っ先に感じました。この感情は、限りなく”スルー"に近いものです。

 この知人の過去の経歴の詳細は伏せておきますが、過去に専門職でデビューして短期間で失職。その後、あちこちの企業に派遣されては、短期間で派遣を打ち切られている方です。年に一度、友人たちとの新年会でのみ会うのですが、本人曰く、派遣先の上司に口ごたえして雇用を打ち切られることがあったとか。そういう話を聞く度に、「職場で自分の意見をストレートに物申すのもTPOをよく考えてほしい」と常々思っていましたが、自分自身がこの知人に言われる立場になると、先ほどの感想に加えて「あぁ…自分も堕ちたものだな…。」と思ったのが正直なところです。言われたくない相手から言われたくない言葉を言われた事で、自分の心の防御が働いたのでしょう。もう一言加えるならば「自分のことを横に置いて言うな」と。

 その直後に、日課となっているかみさんとの電話で、自分は傲慢な人間かどうか聞いてみました。

「傲慢ではないけど、頑固なところはあるかも。でも、理由に納得したら、180度手のひらを返したかのように受け入れる人。」

…さすがです、かみさん。伊達に17年間一緒に暮らしておりません。よくわかってくれてます。これで、自分が知人の言葉に対して感じていた”違和感”の正体をつかみました。

 ”傲慢”と言うは簡単ですが、傲慢の意味を「自己主張が強い人」&「自分の事を最優先に考える人」&「自分の思い通りにならない事を悲観する人」と一括りにした意味で言葉を使われたら、転職者は全て傲慢な人と定義されてしまいます。この知人は、傲慢という言葉をそのように捉えているのかも知れません。私は、本当に傲慢な人は「自分の目的のためなら相手を犠牲にしても良いと考えている人」と認識しています。転職者はそういう考えを持っていません。むしろ、派遣先の企業でトラブルを起こして短期間で派遣業務が無くなってしまう事を繰り返し、自分のことを棚に上げて私に”傲慢”と言い放ったこの知人こそ、真に傲慢な人間ではないかと感じています。だから、私はこの知人の言葉に怒る事なく、スルーする気持ちに至った訳です。

 

 転職活動中の人は、新たな職を得るために必死です。相手に気に入られなければ職を得ることが出来ない、それもあるでしょう。しかし、自分の能力や本来の性格を欺き続けて得た職は決して長くは続きません。だから、自分の主張や能力を明確に打ち出す事は大事です。それで受け入れられなければ、御縁が無かったと思ってあきらめるしかありません。転職は、婚活と同じだと私は考えています。そういう意味でも、知人の言葉は、自分を始めとする転活者全員を敵に回す言葉であり、知人にそっくりそのまま返してやりたい言葉でもあります。

 

 余談ですが、日本人の美徳は謙虚であるとよく言われますが、実は「自分の意見を言わずに押し黙ること」を謙虚という言葉で美化しているのではないかと感じています。悪く言えば「物言わぬ日本人」です。私は、前職で物言わぬ人間で過ごしてきたが故に、優秀な後輩達に負け、職を変える事に追い込まれた身です。その経験を経て、現職の授業の一つでは「この授業では日本人としての美徳を捨てろ。自分の考えを表に出す訓練だと思え。どれだけ論理的に自分の意見を示すことが出来るかで成績を決める。」と学生達に宣言しています。

 

 全ての転活者にエールを。そして、自分も次に向けて気持ちを切り替えて頑張ります。

*1:なお、私もれっきとした日本人です。

実務家教員の想定給与

 生々しい話ではありますが、今後、自分みたいな人をなくすためにも記録を残します。

 

 さて、社会人として長く経験した方が教員へ転職した場合、いくら給料がもらえるでしょうか…?

 正直、各学校で開示している初任給の計算方法は曖昧な所を「あえて」残しています。それで「開示」なんて言われても、ファイティングポーズを見せているだけでしかありません。

 では、その曖昧な所を知るにはどうすれば良いのでしょうか?

  • 実際に着任して経験する
  • 実際に経験した人から聞く

の2択ですが、何も調べずに前者を選択すると、私の二の舞になります。なので、この内容を参考にしていただければと思います。

 

 はじめに、”級”と”号俸”の2つを知っていただく必要があります。

  • 級:仕事の役職
  1. 級:助教
  2. 級:講師
  3. 級:准教授
  4. 級:教授
  5. 級:校長などの特別職
  • 号俸:各級の中でのランク(と思って下さい)

実際には、「〇級△△号俸」という示され方で月給が決まります。

 企業ですと、「前年度給与+成績に応じた昇給額」で給与が決まります(入社時点の初任給からの積み上げ型)が、教員の場合は「成績に応じて+〇号俸」となりますので、企業よりは同クラスの人間同士の給与幅は相対的に小さくなります*1

 

 では、初任給の計算方法です。

  級 = 着任する役職

  号俸 =  p × (w×実務経験の年数)+d

  • p(point):1年あたりの昇給号俸(3号俸or4号俸。学校毎に異なります)
  • w(weight):実務経験に対する重み係数
  • d(degree):最終学歴に応じた初期号俸

なお、dについては、大学院からストレートで助教(1級)に着任した際に、 

  • 修士卒:1級18号俸
  • 博士卒(6大卒以外):1級31号俸

となっておりますので、この号俸の数値を使います*2 。仮にdが有効だった場合、修士卒扱いと博士卒扱いでは月給に大きな差が出ます。以前の記事でも書きましたように、教員へ着任後に博士の学位を取得するというのは、月給のみならず、生涯収入で見ると大きな損となります。

 余談ですが、最近は、大学でない高等教育機関でも博士の学位を必須とするケースがほとんどとなり、教育現場における技術士の存在価値が完全に無くなりました。私は技術士でギリギリ教員に滑り込めた立場ですが、おそらく技術士法が根本から変わらない限りは、この状況は変わらないでしょう。だから、「高等教育機関の教員になりたければ、博士の学位は必須。学位を取得できなければ教員になることをあきらめろ。」なのです。

 

 以上の計算を基に、各学校で掲載されている俸給表を見れば、推定初任給が求められます。ただし、社会人から教員に転職される際にはwの値が全くわからないため、後述の事例からある程度低く見積もっておくというのも、心理的ショックを減らす上で有効です。

 

 では、私の現職での事例を紹介します。

  級:3級(准教授)

  号俸:59号俸(実務経験18年、修士卒扱い(d=18)、p=3、w=0.65(逆算した結果))

で、月給は40万円ちょっとです。当然、同じ号俸でも学校が違えば金額は変わります。pやwも学校によって異なりますが、国家公務員の教育職(一)に準ずる私立大学の場合は、p=4となります。

 そして、wについては、これまでの業務と着任後の仕事の関係によって数値が変わる(具体的な数値は各学校にゆだねられる)のですが、着任する級によって係数を変えている可能性も否定できません(非開示です)。私の事例はワーストケースと思って下さい。当然、wが0.8とか1になれば、もちろん予想より上振れします。教員から教員への転職でしたら、教員としての期間はw=1になります(大学から大学への転職の場合は、前職の給与がそのまま持ち越される、もしくは減額となる可能性もありますが)。

 実際、私の初任給に記されていた3級59号俸という区分で、参考元になっている国家公務員の教育職(一)の表上の金額を見ると、月給が+3万円以上でしたね…。さすが現職。国家公務員の0.9倍の給与水準を維持というのは伊達じゃないです(心ばかりの皮肉です)。

 【ここ重要】ただし、私立大学では「他の教員との格差是正」のような理由で「本来の計算結果より号俸が大きく下げられる」可能性はあります。これは、学校の胸先三寸です。一つの大きなリスク要因になります。初任給や俸給表等を前もって明確に示してくれない学校は、気を付けた方が良いでしょう*3

 

 それから、賞与に関しては

  • 期末手当(月数) ※固定分
  • 勤勉手当(月数) ※成績変動分
  • それ以外(役職毎の上乗せ係数)※学校によっては無い所もあります

の3つの合算になります。単位は[ヶ月]です。

 現職の月数を開示すると所属組織が身バレしますので避けますが、大学も含めて、おおむねこの位という目安だけご紹介します。

  • 期末手当:1.25~1.5ヶ月
  • 勤勉手当:0.85ヶ月程度 ※平均的な査定「良好」の場合です
  • それ以外:0.1ヶ月程度 (役職分) ※給与規定には非開示(支給時に初めて知った)

 企業の賞与は、春闘等の結果や企業業績によって大きく変動しますし、管理職でしたら年俸の毎月均等割にストックオプション等が加わる可能性があるので一律いくらとは言えませんが、業績が悪くならない限りは大きく上振れします。一方、教員の賞与は景気の変動に左右されにくいですが、決して上振れは見込めません。

 

 あとは、扶養家族がいらっしゃる場合は、扶養手当も気になるところです。

  • 子:1人目10000円、2人目以降+4000円程度/人
  • 配偶者:6000円程度

が目安になります。ここ3年の間に、配偶者の扶養手当が大きく下げられてます。そのかわり、子供の扶養手当が上げられてます。国の施策に引っ張られる形で変わっているようです。

 

 それから、通勤手当も無視出来ません。自動車通勤の場合は片道の道のり(km)によって支給額が決まりますが、四輪の場合、通勤手当で燃料費をまかなえる燃費のボーダーラインは、「約16km/l」 です。これより下回ると、自分の給与から燃料費を追加しなければなりません。

 実燃費で16km/lの目安ですが、純然たるガソリン車ならアルトワークス(HA36S)が目安になります。これよりもハイパワーの車両は通勤手当のみでは燃料費をまかないきれないと思って下さい。

 ハイブリッド車なら、プリウスより小さい車両にした方が良いでしょう。FRハイブリッドは軒並み10km/l台前半です。ミニバンは2リッタークラスでギリギリ。それ以上は赤字でしょうね。

 ディーゼル車なら、デミオ(スカイアクティブD)以外は赤字になるでしょう*4

 バッテリーEV(BEV)の場合は、学校によって通勤手当の取り扱われ方が変わる可能性もありますので、要確認です。ただ、2019年に某社の定額充電し放題プランの月額料金が大幅に改悪されていますので、BEVでの通勤は得策ではないかもしれません*5。また、充電ステーションがほとんど無い北国では、BEVでの通勤はお勧めできません。極端な例ですが、真冬の通退勤途中に峠道の途中で電欠になったら、時間帯によっては命にかかわります。

 二輪の場合は、125ccバイクの燃費以上でないと、燃料費を自腹で支払う分が発生すると思って下さい。

 

 その他、家賃補助や地域手当などもありますが、学校の所在によって大きく変動しますので、ここでは触れません。もちろん、日本で最も高い所と最も安い所では月収でも13%以上の差があります。生活して思うのは、食費や光熱費は首都圏も北国も大きくは変わりません。家賃も、家賃補助がもらえるのであれば首都圏と地方の負担差は縮小されます。つまり、地方=物価が安くて生活しやすい、というのは、必ずしも正しくはありません。そして、給料は多くもらえるに越したことはありません。大都市圏の大学に転職したい人が多く出るのも、自然の成り行きです。月給が変わらずとも、地域手当目当てで転職するというのも、あり得ます*6

 これを是正するには、地域手当を全廃して、全国一律で月収を首都圏並みに合わせる(地方大学の給与を大幅に増額する)事でしょう。その逆(単純に、地域手当を全廃する)をやったら、間違いなく日本の高等教育は終わります。

 

 …と、今回は生々しい話を書きましたが、教員へ転職した後のライフプランを考える上での参考になれば幸いです。

*1:ただし、教員というのは些細なトラブルでも懲戒処分を受けやすい仕事ですので、最悪の場合は翌年の給与が据え置かれるケースも複数回受けるでしょう。

*2:私のように中途で2級以上へ入職した場合の取り扱い方は、開示されておりません

*3:参照:大学の教員公募は不公平じゃね | アンダンテ・カンタービレ

*4:リッター単価25円程度の差を考慮したら、もしかしたらもう少し選択肢は増えるかも知れませんが。

*5:通勤手当で自動車ローンを賄おうという、某自動車メーカー従業員並の考えはやめた方が良いです

*6:私は一度それを目論んで失敗しました。

転活も、もはや命がけ

 …別に、ここに書いているからではありません。

 例えば、新型コロナウイルス感染症対策として、職場毎のルールで公用の移動制限がかけられている(&他県への移動については、公用に限らず私用ですら報告義務が課せられている)所が増えているのではないでしょうか。

 

 あとは、万が一転活中の方が渡航先で感染してしまった場合、事実上、職場や地域住民に転活がバレるリスクを抱えます(上記の報告義務を遵守していなかったら、懲戒処分に至る事も)。まぁ、それを承知の上じゃないと転活なんて出来ないとは思いますが。

 

 これは、私を含めた転活者にとっては非常に厳しい状況です…。生活のために、幸せのために転職したい。しかし、万が一転活の面接審査で渡航して感染したら、幸せをつかむどころか、一生を棒に振る可能性すらある…。転活は、もはや命がけです。

某私立大学の面接審査の結果

 8月に入りました。ようやく梅雨明け…。でも、心はどんよりです。

 そんな気分に呼応するように、先週末(8/1)に臨んだ某私立大学 教員面接審査の結果が本日(8/3)夕方までに連絡が来ないので、「あぁ、またお祈りか…。」と、落ち込んでおります。

 多くの高等教育機関の場合、採用者には、即日(どんなに夜遅くとも入れる)もしくは翌営業日に第一報の連絡が電話で入ります*1 。すなわち、翌営業日の営業時間を超えても何の音沙汰も無い場合は、高確率でお祈りとなります。

 

 ここで、今回臨んだ面接審査について記録を残します。 

 今回の面接審査は、

  • 自己PR 兼 教育研究活動の紹介(プレゼン):15分
  • 質疑応答:15分

の計30分でした。私立大学の面接審査は人生二度目でしたので、時間をかけて準備を進めてきました。時には、かみさんとオンライン通話をしながらプレゼンのリハーサルと資料修正をじっくりと進めてきました。本番でのプレゼン時間は14分弱。プレゼン時間オーバーは大きなマイナスになりますので、マイナス要素を出さないように気づかいながら自分のPRに専念しました。しかし、プレゼンの最中に学長の方を何度も見たのですが、積極的に聴講しようという意思が感じられません。この時、直感的に嫌な予感がしました。「結果は審査を始める前にもう出ている」と。

 その後の質疑応答は、はっきり言えば当たり障りのない質問だらけ、その中で自分がマイナス要素を出したとするならば、最初の質問に対する回答が長かった事くらい。ラス前の理事長からの質問は、ほとんど家族構成などのプライベートに関わる質問だったし、最後の学長からの質問は、どうも積極的に採用したいという印象が感じられない…。この時点で、面接を始める前から答えは出ていたと確信しました。

 そして、もう一つ自分が心に引っかかったのは、その日に予定されていた面接審査のトップバッターだったということ。別に、学校側が飛行機の時間を考慮してくれた訳ではありません。この大学では、この日だけでも、5ポスト分の面接審査が行われた訳ですが、仮に1ポストあたりの面接対象者が2人ずつでも審査は5時間以上。3人ずつなら8時間程度はかかります。おそらく、各ポストの本命者を後ろにしたものと推測しています。これは、今年の1月に落ちた「大学ではない」高等教育機関の面接審査でも同じ傾向でした。この時は、2人の採用枠に対して面接対象者は自分を含め4人。自分は2番目でした。一般的に、この手の審査のトップバッターは不利です。トップバッターは審査員も厳しく見ますし、後続の審査が甘くなりやすい傾向があります(経験的にも、伝聞的にも)。

 そういえば、2014年に初めて大学の公募に応募した首都圏西部の某T大学。まさにビギナーズラックで面接審査の案内を頂きましたが、結局は校内での内部昇格を公募という形で見せかけたものでした。この時の面接順番もトップバッターでした。余談ですが、その後、このT大学の教員公募は、ほぼ全て任期付き教員しか募集していませんので、もう一生御縁はないものと捉えています。

 

 もし、これを読んで頂いた皆様が大学教員の面接審査に臨む機会があれば、何番目に審査を受ける事になるかをチェックしておくと良いでしょう。トップバッター、もしくは前半(採用枠数以内の順番)だとすれば「あなたは本命ではない」と思った方が、相対的に気が楽になります。もしかしたら、最初からあきらめの胸中に陥るかも知れませんが。

 

 さて、ここまで振り返って、自分の何がマイナス要素だとすれば…

  1. 査読論文の本数
  2. 年齢
  3. 教員として実務年数

の3点ではないかと考えます。これが全て正しければ、やはり、面接審査を始める前に結果は見えていたのです。

 

 準備にたくさんの手間と時間をかけただけに、やはり審査に落ちる事は心のダメージが大きいです。慣れないものです。唯一ありがたかったのは、大学側から交通費を頂いた事でしょうか。

 

 私の大学教員公募チャレンジは、書類審査が残り10件。全ての書類審査結果がわかる目途は、9/14(応募した最後の公募の期限から2週間後)です。この日までに、面接審査の案内が1件も来ない場合、私は、実務家教員としての人生を今年度限りで断念し、再び産業界で働く覚悟です。

 

 これは何度でも書きますが、今の仕事が嫌だから転職活動をしている訳ではありません。日々の自分の仕事だけを見れば天職です。これ以上ない位に自分のペースで仕事が出来ます。学生達が育つ姿を実感出来るのは、この仕事ならではだと感じています。

しかし、

  • 現在の職場における自分の待遇が大きく見合わない
    (修士卒の給料のままという時点で、もはや年収50万円以上マイナスとなっている。大学教員になれば、更に月収+3万円以上の可能性が高い)
  • 給与制度が悪い意味でザルすぎる
    (学位を取得しても給料が一銭も変わらないと大ボスから告げられ、心底がっかりした)
  • 組織のグダグダ体質に身限りをつけた
    (教員会議の度に、一部の教員による押し問答の勃発と、明確かつ具体的な方針を出せない上層部の無能さに辟易した)

これらが、私の転職活動の原動力です。

 これに対して、ワガママと言う方もいらっしゃるかも知れません。しかし、転職活動した方のほとんどは、そういうきっかけがあって動き出したことでしょう。自分や家族の幸せのために動く事に否定される事は何もないはずです。

 

 今後も、また変化があれば記録を残していきます。

*1:ただし、人事委員会の決裁ではなく必ず教授会を通す大学の場合は、時間がかかるそうです。参考:https://note.com/asrgargergdf/n/nc31fde8b41fc

某大学様からの面接審査の案内と、ヘッドハンターからの提案

 以前の投稿から2週間が経過しました。その間に、ちょっと変化がありました。

 ある日、公募を応募していたとある大学様からの封書が届きまして、厚みを見て「あぁ、またお祈り手紙が来た…」と思いつつも、丁寧に封を開いて中に入っていた文面を確認しようとしました。文面の裏側が少し透けて見えるのですが、どうも、お祈り手紙では書かれないキーワードが書いてある…。「え!?」と慌てて文面を確認したら、書類選考を通過した事と面接審査の御案内が書かれていました。想定外の展開に、3分間は何も考えられなくなりました。

 こんな自分でも最終選考対象に含めて頂けた事への感謝と、大変貴重なチャンスを頂いた事への緊張感を持って、面接審査の課題として指定された模擬授業代わりのプレゼンテーション準備を進めています。

  どこの大学様なのかは控えさせて頂きますが、総合大学ではありません。工業地帯の近くにある私立大学様です。自分の経験やスキルを評価して頂けるだけでも、大変ありがたく思います。

 それと、この新型コロナウイルス禍の中、面接審査はオンラインで行われるかと思いましたが、なんと現地へ赴く事になりました。交通費の支給はあるとのこと。首都圏を経由せずに現地へ赴く手段があったのが幸いです。現地は首都圏と比べれば感染者が1桁少ない状況ではありますが、東北某県のようにゼロではありません。

 雇用条件に対する自分の期待…というか希望は、現職と比較した場合の月給が+5万円以上(諸手当抜き)、かつ役職がAPからPに変わったら即応諾するつもりです。現職は修士卒扱いで初任給が決められてしまったので、この仕事の中では安い方。同年代と比べても-3年分の給与の差があります(1~3歳下のAP教員に給与で負けてしまう)。雇用側にとってはリーズナブルな人間、自分個人としては給与面で3年分以上のビハインドを抱えている不満が溜まる状況。これが、博士卒扱いになるだけでも+3年分以上の号給アップになる事や、経験や能力をどう評価して頂けるか…。

 不安と期待が混在していますが、前向きに気持ちを持って、時には新生活の楽しみを妄想しながら、準備を進めたいと思います。

 

 その一方…実はこの手紙が来た同日、封書を開く前に、企業への転職ルートでヘッドハンターの方からご連絡を頂きました。都心のど真ん中にある大企業の研究職のマネージャポジションについて書類選考をかけてもらってました。企業側の人事の選考はパスしたけど、企業側およびヘッドハンターからちょっと悩み話が…。

 「実際に働く現場の選考に入ると、今のタイミングでは11月1日入社となってしまうのと、このポジションの採用が難航している(適任者がなかなかいない)。そのため、9月中旬までの間に大学教員の内定が決まらなかった場合は、改めて人事から現場の選考にかけたい。」

 実は、この企業様の人事側も、現場でなかなか適任者が決まらない悩みと、自分が希望している2021年4月1日入社の希望に合わない点を気にかけて頂いておりました。また、人事側は11月1日入社の適任者が決まらない公算が高いと踏んでいて、入社タイミングが変わった時の切り札として自分の応募書類を出したいとのこと。自分のキャリアやスキルは人事的には高く評価して頂いているので、自分自身も大学教員に就く御縁が無ければ、企業様の希望に迷う事なく応諾するつもりです。

 …ということで、9月中旬までは大学教員の面接試験の機会を頂けたら、かたっぱしから臨み、ご縁が無ければ再び企業人としてのキャリアへ切り替える所存です。

 

 時が来たら、この活動の一部始終を、一冊の薄い本にまとめたいと思います。

日本における実務家教員のいばらの道

 このblog上では初めて書きます。40代の高等教育機関の教員です。

 数年前までは企業でエンジニアとして勤めていましたが、色々な出来事を経て今の仕事に就いております。身バレ防止のために細かい話は書けませんが、単身赴任中です。

 今の仕事では、収入の大幅減少を除けば、充実した日々を送っております。特に、自分のペースで仕事をこなせて、かつ、学生達と心の距離を適切に保ちながら、自分の技術や経験を伝承し、助言していく事にやりがいを感じていました。時には学生達の第二の親として、「これからの世の中を変えていく皆さんに期待して、この授業を進めている」事も語り続けました。

 

 しかし、プライベートの事情が重なって、収入面での軌道修正が必要となった今、改めて自分が置かれている立場を振り返ると、実務家教員という立場が肩身が狭く、かつ活躍出来る場所が非常に限定されているものかと感じております。

 例えば、実務家教員が更なるキャリアアップとして大学の教員への転身を考えたとしましょう。しかし、大学の教員採用においては、査読論文の本数がほぼすべてです。以前は、査読論文の本数より直近数年間の学会発表件数を重視する私立大学もありましたが、実際に大学教員の公募へ応募し続けながら感じるのは、

「どのランクの大学に応募しても、査読論文の本数では純粋培養の教員には勝てない」

という現実です。

 実務家教員の中には、企業の基礎研究所に入社して、毎年1本以上の査読論文を出し続けていた人もいるでしょう。そういう人なら、査読論文の本数がそれなりにあれば、大学教員へ転職出来る可能性は充分あります。しかし、そうでない教員、例えば企業の「商品開発」や「生産技術」などの実務部隊で日々仕事に追われ続けてきた”経験豊富な”教員は、ほぼ確実に大学の教員にはなれません。それが、私が今さら気づいた現実です。例えば、准教授ならば査読論文20本以上が最低限の目安とも言われています*1。学会発表も含めた事前査読を伴わない論文執筆・投稿の本数は、ほとんど意味を成しません*2

 そうなると、一旦エンジニアから教員に転職してしまった実務家教員は、収入がほとんど横ばいで、その職場で我慢し続けながら定年まで働き続けなければならないのでしょうか?そのとおりです。教員であることを捨てない限りは、キャリアアップは無理と言わざるを得ません。

 

 私が教員への転職活動を始めた2014年頃は、専門職大学高専高度化というキーワードが飛び交い、実務経験豊富で教員への転職を希望する人にとっては願ってもない好機だったかも知れません。大学院にも、社会人選抜枠が存在していました。しかし、いつの間にか状況は一変していた事に気づくのが遅かった…というか、だれもが気づかないうちに状況は変わっていたのです。私が数少ない状況の変化に気づいたのは、4年前に母校が博士後期課程の社会人選抜枠を廃止した事。この時点で、世の中の高等教育機関においては、実務経験がある教員を歓迎するムードが無くなったと言っても良いでしょう。

 その一方で、文科省は「実務家教員養成(社会人のリカレント教育)」という謳い文句で複数の大学で構成する教育プログラムの公募を応募していたり…これは、一体誰が得するの?産業界にとっては何の恩恵があるの?と疑問を持たざるを得ません。

 

 再び収入面に話を戻しまして…エンジニアが一旦大学以外の教育機関の教員に転職すれば、教員という立場を捨てない限りはジリ貧の生活が死ぬまで待っています。年収は100万円以上マイナスになると言っても過言ではありません。大企業の管理職から転職した教員の場合は、数百万円のマイナスもあります。しかも、教員採用時に人事から基本給しか通知されなかったという経験をした自分にとっては、入職してから初めて身をもって知った不都合な事実がたくさんありました。

  • 残業代はゼロ(入職してすぐに知らされた)
  • 年収は「基本給+家族手当×12か月+4か月ちょっとの期末手当」のみ
  • 人事に何か申し立てすると「Webサイトで公開されています」の一言で流される(そんなの、誰が自発的に読むんだよ…と。さすが団体職員…)
  • 入職後に学位を取得しても、給料は一銭も上がらない
    (入職時の最終学歴だけで、修士卒扱いと博士卒扱いでは3年分≒1.5~3万円前後/月の差が生じるので、入職後の学位取得は大損です*3 )。
  • 毎年の給与アップは、3000~4500円/月程度
  • 教員は、上がりにくく下がりやすい
    (仕事上のちょっとしたトラブルで、すぐに懲戒処分が出やすい職場です)

 もし、このページを目にされて、教員への転職を考えているエンジニアの方がいらっしゃった場合、「組織の上層部に対してイエスマンでいつづける覚悟がある人以外は、教員への転職はやめておいた方がよい」と強く主張します。

 

 そして、今自分は大学教員への公募に出し続けています。理由はただひとつ。自分自身のキャリアアップ。同じポストでも、大学でない高等教育機関と大学では月収3万円以上の差があります*4。准教授枠への応募なので、非常に厳しい競争なのは承知の上です。23件応募して、12件は既に書類選考で落ちています。残り11件も厳しいでしょう。
 とはいえ、プライベート側の事情も待ってはくれませんので、再びエンジニアとして自分のキャリアを認めてくれる企業様との御縁があれば、前向きに検討する所存です。

 

 今後も、自分が経験した事を可能な限り紹介して参りたいと思います。自分の感じ方や考え方がすべて正しいとは思っていません。しかし、事実は余すところなく書いていきたいと思います。

 皆様からのコメントも大歓迎です…が、話題が話題なだけに、辛辣なコメントは何卒ご容赦頂きたく存じます…。

 よろしくお願いいたします。

*1:http://scienceandtechnology.jp/archives/31913 より参照

*2:事前査読付の国際学会発表論文は業績の一部として扱う大学もあります

*3:某団体職員の教育職(一)の初任給および国家公務員の教育職(一)の初任給の両方で確認。共に、修士卒と博士卒ではスタート時点で18号俸の差があります。

*4:某団体職員の教育職(一)の俸給表3級(准教授)と、国家公務員の教育職(一)の俸給表3級(准教授)で同一の号俸(3級70号俸)で比較。なお、地方の私立大学では、国家公務員の教育職(一)の俸給表で教員の給与を決めている所もあります(全国の私立大学の中では、相対的に低賃金の職場とも言えます)。