実務家教員の想定給与
生々しい話ではありますが、今後、自分みたいな人をなくすためにも記録を残します。
さて、社会人として長く経験した方が教員へ転職した場合、いくら給料がもらえるでしょうか…?
正直、各学校で開示している初任給の計算方法は曖昧な所を「あえて」残しています。それで「開示」なんて言われても、ファイティングポーズを見せているだけでしかありません。
では、その曖昧な所を知るにはどうすれば良いのでしょうか?
- 実際に着任して経験する
- 実際に経験した人から聞く
の2択ですが、何も調べずに前者を選択すると、私の二の舞になります。なので、この内容を参考にしていただければと思います。
はじめに、”級”と”号俸”の2つを知っていただく必要があります。
- 級:仕事の役職
- 級:助教
- 級:講師
- 級:准教授
- 級:教授
- 級:校長などの特別職
- 号俸:各級の中でのランク(と思って下さい)
実際には、「〇級△△号俸」という示され方で月給が決まります。
企業ですと、「前年度給与+成績に応じた昇給額」で給与が決まります(入社時点の初任給からの積み上げ型)が、教員の場合は「成績に応じて+〇号俸」となりますので、企業よりは同クラスの人間同士の給与幅は相対的に小さくなります*1 。
では、初任給の計算方法です。
級 = 着任する役職
号俸 = p × (w×実務経験の年数)+d
- p(point):1年あたりの昇給号俸(3号俸or4号俸。学校毎に異なります)
- w(weight):実務経験に対する重み係数
- d(degree):最終学歴に応じた初期号俸
なお、dについては、大学院からストレートで助教(1級)に着任した際に、
- 修士卒:1級18号俸
- 博士卒(6大卒以外):1級31号俸
となっておりますので、この号俸の数値を使います*2 。仮にdが有効だった場合、修士卒扱いと博士卒扱いでは月給に大きな差が出ます。以前の記事でも書きましたように、教員へ着任後に博士の学位を取得するというのは、月給のみならず、生涯収入で見ると大きな損となります。
余談ですが、最近は、大学でない高等教育機関でも博士の学位を必須とするケースがほとんどとなり、教育現場における技術士の存在価値が完全に無くなりました。私は技術士でギリギリ教員に滑り込めた立場ですが、おそらく技術士法が根本から変わらない限りは、この状況は変わらないでしょう。だから、「高等教育機関の教員になりたければ、博士の学位は必須。学位を取得できなければ教員になることをあきらめろ。」なのです。
以上の計算を基に、各学校で掲載されている俸給表を見れば、推定初任給が求められます。ただし、社会人から教員に転職される際にはwの値が全くわからないため、後述の事例からある程度低く見積もっておくというのも、心理的ショックを減らす上で有効です。
では、私の現職での事例を紹介します。
級:3級(准教授)
号俸:59号俸(実務経験18年、修士卒扱い(d=18)、p=3、w=0.65(逆算した結果))
で、月給は40万円ちょっとです。当然、同じ号俸でも学校が違えば金額は変わります。pやwも学校によって異なりますが、国家公務員の教育職(一)に準ずる私立大学の場合は、p=4となります。
そして、wについては、これまでの業務と着任後の仕事の関係によって数値が変わる(具体的な数値は各学校にゆだねられる)のですが、着任する級によって係数を変えている可能性も否定できません(非開示です)。私の事例はワーストケースと思って下さい。当然、wが0.8とか1になれば、もちろん予想より上振れします。教員から教員への転職でしたら、教員としての期間はw=1になります(大学から大学への転職の場合は、前職の給与がそのまま持ち越される、もしくは減額となる可能性もありますが)。
実際、私の初任給に記されていた3級59号俸という区分で、参考元になっている国家公務員の教育職(一)の表上の金額を見ると、月給が+3万円以上でしたね…。さすが現職。国家公務員の0.9倍の給与水準を維持というのは伊達じゃないです(心ばかりの皮肉です)。
【ここ重要】ただし、私立大学では「他の教員との格差是正」のような理由で「本来の計算結果より号俸が大きく下げられる」可能性はあります。これは、学校の胸先三寸です。一つの大きなリスク要因になります。初任給や俸給表等を前もって明確に示してくれない学校は、気を付けた方が良いでしょう*3。
それから、賞与に関しては
- 期末手当(月数) ※固定分
- 勤勉手当(月数) ※成績変動分
- それ以外(役職毎の上乗せ係数)※学校によっては無い所もあります
の3つの合算になります。単位は[ヶ月]です。
現職の月数を開示すると所属組織が身バレしますので避けますが、大学も含めて、おおむねこの位という目安だけご紹介します。
- 期末手当:1.25~1.5ヶ月
- 勤勉手当:0.85ヶ月程度 ※平均的な査定「良好」の場合です
- それ以外:0.1ヶ月程度 (役職分) ※給与規定には非開示(支給時に初めて知った)
企業の賞与は、春闘等の結果や企業業績によって大きく変動しますし、管理職でしたら年俸の毎月均等割にストックオプション等が加わる可能性があるので一律いくらとは言えませんが、業績が悪くならない限りは大きく上振れします。一方、教員の賞与は景気の変動に左右されにくいですが、決して上振れは見込めません。
あとは、扶養家族がいらっしゃる場合は、扶養手当も気になるところです。
- 子:1人目10000円、2人目以降+4000円程度/人
- 配偶者:6000円程度
が目安になります。ここ3年の間に、配偶者の扶養手当が大きく下げられてます。そのかわり、子供の扶養手当が上げられてます。国の施策に引っ張られる形で変わっているようです。
それから、通勤手当も無視出来ません。自動車通勤の場合は片道の道のり(km)によって支給額が決まりますが、四輪の場合、通勤手当で燃料費をまかなえる燃費のボーダーラインは、「約16km/l」 です。これより下回ると、自分の給与から燃料費を追加しなければなりません。
実燃費で16km/lの目安ですが、純然たるガソリン車ならアルトワークス(HA36S)が目安になります。これよりもハイパワーの車両は通勤手当のみでは燃料費をまかないきれないと思って下さい。
ハイブリッド車なら、プリウスより小さい車両にした方が良いでしょう。FRハイブリッドは軒並み10km/l台前半です。ミニバンは2リッタークラスでギリギリ。それ以上は赤字でしょうね。
ディーゼル車なら、デミオ(スカイアクティブD)以外は赤字になるでしょう*4 。
バッテリーEV(BEV)の場合は、学校によって通勤手当の取り扱われ方が変わる可能性もありますので、要確認です。ただ、2019年に某社の定額充電し放題プランの月額料金が大幅に改悪されていますので、BEVでの通勤は得策ではないかもしれません*5。また、充電ステーションがほとんど無い北国では、BEVでの通勤はお勧めできません。極端な例ですが、真冬の通退勤途中に峠道の途中で電欠になったら、時間帯によっては命にかかわります。
二輪の場合は、125ccバイクの燃費以上でないと、燃料費を自腹で支払う分が発生すると思って下さい。
その他、家賃補助や地域手当などもありますが、学校の所在によって大きく変動しますので、ここでは触れません。もちろん、日本で最も高い所と最も安い所では月収でも13%以上の差があります。生活して思うのは、食費や光熱費は首都圏も北国も大きくは変わりません。家賃も、家賃補助がもらえるのであれば首都圏と地方の負担差は縮小されます。つまり、地方=物価が安くて生活しやすい、というのは、必ずしも正しくはありません。そして、給料は多くもらえるに越したことはありません。大都市圏の大学に転職したい人が多く出るのも、自然の成り行きです。月給が変わらずとも、地域手当目当てで転職するというのも、あり得ます*6 。
これを是正するには、地域手当を全廃して、全国一律で月収を首都圏並みに合わせる(地方大学の給与を大幅に増額する)事でしょう。その逆(単純に、地域手当を全廃する)をやったら、間違いなく日本の高等教育は終わります。
…と、今回は生々しい話を書きましたが、教員へ転職した後のライフプランを考える上での参考になれば幸いです。