実務家教員、人生の岐路で生きる事に挫折した

エンジニアから実務家教員になった筆者が、再び人生の岐路に立って、生きる事に挫折するまでの記録を綴るblogです。

日本における実務家教員のいばらの道

 このblog上では初めて書きます。40代の高等教育機関の教員です。

 数年前までは企業でエンジニアとして勤めていましたが、色々な出来事を経て今の仕事に就いております。身バレ防止のために細かい話は書けませんが、単身赴任中です。

 今の仕事では、収入の大幅減少を除けば、充実した日々を送っております。特に、自分のペースで仕事をこなせて、かつ、学生達と心の距離を適切に保ちながら、自分の技術や経験を伝承し、助言していく事にやりがいを感じていました。時には学生達の第二の親として、「これからの世の中を変えていく皆さんに期待して、この授業を進めている」事も語り続けました。

 

 しかし、プライベートの事情が重なって、収入面での軌道修正が必要となった今、改めて自分が置かれている立場を振り返ると、実務家教員という立場が肩身が狭く、かつ活躍出来る場所が非常に限定されているものかと感じております。

 例えば、実務家教員が更なるキャリアアップとして大学の教員への転身を考えたとしましょう。しかし、大学の教員採用においては、査読論文の本数がほぼすべてです。以前は、査読論文の本数より直近数年間の学会発表件数を重視する私立大学もありましたが、実際に大学教員の公募へ応募し続けながら感じるのは、

「どのランクの大学に応募しても、査読論文の本数では純粋培養の教員には勝てない」

という現実です。

 実務家教員の中には、企業の基礎研究所に入社して、毎年1本以上の査読論文を出し続けていた人もいるでしょう。そういう人なら、査読論文の本数がそれなりにあれば、大学教員へ転職出来る可能性は充分あります。しかし、そうでない教員、例えば企業の「商品開発」や「生産技術」などの実務部隊で日々仕事に追われ続けてきた”経験豊富な”教員は、ほぼ確実に大学の教員にはなれません。それが、私が今さら気づいた現実です。例えば、准教授ならば査読論文20本以上が最低限の目安とも言われています*1。学会発表も含めた事前査読を伴わない論文執筆・投稿の本数は、ほとんど意味を成しません*2

 そうなると、一旦エンジニアから教員に転職してしまった実務家教員は、収入がほとんど横ばいで、その職場で我慢し続けながら定年まで働き続けなければならないのでしょうか?そのとおりです。教員であることを捨てない限りは、キャリアアップは無理と言わざるを得ません。

 

 私が教員への転職活動を始めた2014年頃は、専門職大学高専高度化というキーワードが飛び交い、実務経験豊富で教員への転職を希望する人にとっては願ってもない好機だったかも知れません。大学院にも、社会人選抜枠が存在していました。しかし、いつの間にか状況は一変していた事に気づくのが遅かった…というか、だれもが気づかないうちに状況は変わっていたのです。私が数少ない状況の変化に気づいたのは、4年前に母校が博士後期課程の社会人選抜枠を廃止した事。この時点で、世の中の高等教育機関においては、実務経験がある教員を歓迎するムードが無くなったと言っても良いでしょう。

 その一方で、文科省は「実務家教員養成(社会人のリカレント教育)」という謳い文句で複数の大学で構成する教育プログラムの公募を応募していたり…これは、一体誰が得するの?産業界にとっては何の恩恵があるの?と疑問を持たざるを得ません。

 

 再び収入面に話を戻しまして…エンジニアが一旦大学以外の教育機関の教員に転職すれば、教員という立場を捨てない限りはジリ貧の生活が死ぬまで待っています。年収は100万円以上マイナスになると言っても過言ではありません。大企業の管理職から転職した教員の場合は、数百万円のマイナスもあります。しかも、教員採用時に人事から基本給しか通知されなかったという経験をした自分にとっては、入職してから初めて身をもって知った不都合な事実がたくさんありました。

  • 残業代はゼロ(入職してすぐに知らされた)
  • 年収は「基本給+家族手当×12か月+4か月ちょっとの期末手当」のみ
  • 人事に何か申し立てすると「Webサイトで公開されています」の一言で流される(そんなの、誰が自発的に読むんだよ…と。さすが団体職員…)
  • 入職後に学位を取得しても、給料は一銭も上がらない
    (入職時の最終学歴だけで、修士卒扱いと博士卒扱いでは3年分≒1.5~3万円前後/月の差が生じるので、入職後の学位取得は大損です*3 )。
  • 毎年の給与アップは、3000~4500円/月程度
  • 教員は、上がりにくく下がりやすい
    (仕事上のちょっとしたトラブルで、すぐに懲戒処分が出やすい職場です)

 もし、このページを目にされて、教員への転職を考えているエンジニアの方がいらっしゃった場合、「組織の上層部に対してイエスマンでいつづける覚悟がある人以外は、教員への転職はやめておいた方がよい」と強く主張します。

 

 そして、今自分は大学教員への公募に出し続けています。理由はただひとつ。自分自身のキャリアアップ。同じポストでも、大学でない高等教育機関と大学では月収3万円以上の差があります*4。准教授枠への応募なので、非常に厳しい競争なのは承知の上です。23件応募して、12件は既に書類選考で落ちています。残り11件も厳しいでしょう。
 とはいえ、プライベート側の事情も待ってはくれませんので、再びエンジニアとして自分のキャリアを認めてくれる企業様との御縁があれば、前向きに検討する所存です。

 

 今後も、自分が経験した事を可能な限り紹介して参りたいと思います。自分の感じ方や考え方がすべて正しいとは思っていません。しかし、事実は余すところなく書いていきたいと思います。

 皆様からのコメントも大歓迎です…が、話題が話題なだけに、辛辣なコメントは何卒ご容赦頂きたく存じます…。

 よろしくお願いいたします。

*1:http://scienceandtechnology.jp/archives/31913 より参照

*2:事前査読付の国際学会発表論文は業績の一部として扱う大学もあります

*3:某団体職員の教育職(一)の初任給および国家公務員の教育職(一)の初任給の両方で確認。共に、修士卒と博士卒ではスタート時点で18号俸の差があります。

*4:某団体職員の教育職(一)の俸給表3級(准教授)と、国家公務員の教育職(一)の俸給表3級(准教授)で同一の号俸(3級70号俸)で比較。なお、地方の私立大学では、国家公務員の教育職(一)の俸給表で教員の給与を決めている所もあります(全国の私立大学の中では、相対的に低賃金の職場とも言えます)。